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対談 亜欧堂代表 堀口 × 空CEO 松村 〜レベニューマネジメントへの向き合い方〜

2007年からホテルマネジメントをサポートし続ける株式会社亜欧堂 堀口洋明と、AI技術を駆使したレベニューマネジメントシステム(ホテル番付、MagicPrice)を提供する株式会社空 松村大貴。異なる角度からホテル業界を支援する2社の代表が、ホテル業界におけるレベニューマネジメントの重要性を語り合いました。

マーケットが変わっても、基本のセオリーは変わらない

松村:ホテル業界にIT技術が入り始めた頃からずっと業界を見られてきた堀口さんですが、最近変わってきたなと感じることはありますか?

堀口:まず1つ、マーケットが変わってきたと感じています。最近は外国人比率が非常に上がってきていますね。10年前はインターネットやモバイルが業界に入ってきたことで、ブッキングペースが直近化してきたと言われていました。ところが、外国人の皆さんは比較的早い段階で予約されるので、実際にはブッキングペースが延びてきているんです。

ただ、私としては最近のホテル業界の環境が劇的に変わったというわけではないと考えています。もし変わったと感じる方がいるとしたら、それは現状に対する分析ができていないだけという話なのかな、と。

松村:基本の方法論は昔から変わっていないということですね。例えばネット予約比率が増えてきたからというような話ではなく、レベニューマネジメントに関する正しい知識を持っていれば、これから先も変わらずにやっていけるはず。業務の効率化やレベニューマネジメントの体系的な手法を学び、業務時間や利益の損失を減らしていくことが、時代に関わらずホテル業界が取り組むべきこと、という認識です。

 

人手不足をいかに乗り切るか

堀口:もう1つ最近のホテル業界で言えることとして、人手不足の影響が出てきていることは間違いないでしょう。弊社にくる相談として多いのは、「複数のホテルのレベニューマネジメントを一人の人間に任せることはできないか」という話です。それ自体はできるというのが、私の考えです。

よく勘違いされている方がいらっしゃるのですが、レベニューマネジメントは毎日料金を見て変えていくことではありません。優れたレベニューマネ―ジャーというのは、最初に立てた予測からのずれが少ないんです。ですから、毎日の業務の中で「あ、予想通りだな」と確認するだけで済みます。それが理想。実際私たちは、予約管理業務は1日1時間を目安にしていただくようにホテルの方にお伝えしています。

松村:私たち空へのお問い合わせでも、「旅行者は増えてきているけれど、そもそもホテルを運営する人が足りていない。特にレベニューマネジメントができる専門性の高い人材が足りていない」ということをよく聞きます。

民泊も含めてライバルが増えてきている中でどうやって選ばれていくか、いかに収益性を高め、人材を確保し、新しいことをしていくか。そういったときに、旧来の料金設定や販売方法だと間に合わなくなってきているのが現状です。変化の多い時代ですから、昨年の結果を参考にしているだけでは、先のことを読みにくくなってきてもいます。こうした状況から、何かしら外部の力を借りることも必要になってきているのではないでしょうか。

 

レベニューマネジメントは収益アップに必要不可欠なもの

松村:レベニューマネジメントの重要性について、どのようにお考えですか?

堀口:レベニューマネジメントは、ホテルが収益を上げていくために必要不可欠なものです。ホテルの産業特性は、供給量をいじれないということに尽きます。ピーク時に合わせて部屋を作っておくわけにはいかないので、ある程度埋まるだろうという予測に基づいてホテルを建設しますよね。そうすると忙しいときには部屋が足りない、暇なときには部屋が埋まらない、ということが起きてきます。一物一価の状態で部屋を売っていると、どうしても経営効率的には悪くなります。限られた部屋数の中で、誰を断るかを決めなければなりません。それを料金で行っているのが、レベニューマネジメントなのです。

私にとってのレベニューマネジメントというのは、決して特別なことや難しいことではなく、単純な予約管理の体系的手法なんです。きちんと実施すればある程度効果が出せるというだけのもの。逆に言うと、レベニューマネジメントは需要に対して制限することはできますが、需要そのものを作り出すことはできません。需要を作り出すためには、マーケティングで頑張るしかないのです。

たまに「レベニューマネジメントさえやっていれば薔薇色だろう」と言う方がいらっしゃいますが、そんなことは決してありません。レベニューマネジメントが万能主義的に語られることには違和感があります。確かに重要なことではあるのですが、過度に期待し過ぎてもいけません。レベニューマネジメントは、あくまでホテル業界におけるオペレーションのジャンルの1つです。当たり前ですが、ホテルにおける基本的なサービスにもしっかり取り組んでいく必要があります。

 

「予測」をいかに普及させるかがポイント

松村:これまで亜欧堂として多くのホテルからご相談を受けてこられた中で、日本のホテル業界においてレベニューマネジメントの課題となっていることは何だと思いますか?

堀口:そもそも、レベニューマネジメントを誤解している人が多いということが課題としてあります。忙しいときは高く、暇なときは安くということ自体は「レベニュー」という言葉が入ってくる前から、「シーズナリティ」という概念で存在していたんです。

では「レベニュー」という言葉が生まれて何が変わったのか?私は「予測」という概念や技術が確立してきたことだと考えています。これまでは昨年の結果を参考にして料金を決めていたけれども、予測を元に販売方法を変えるようになってきました。この「予測を元にして販売方法を変える」というプロセスを理解していない人が、まだまだ多いと感じます。

じゃあ予測はどうやるの?という話になるのですが、ここでツールが必要になってきます。このツールが普及していないことが、もう1つの課題になるでしょう。既存のレベニューシステムは非常に高額なので、大きなチェーンならともかく、単体のホテルでは導入が厳しいのが現実です。ですので、安価で予測をできるツールがあればそれにこしたことはありません。予測をいかに普及させるか、予測をするために必要な環境をいかに整えていくか、といったところが非常に重要だと思います。

 

ツール導入の前にやるべきこと

松村:レベニューマネジメントの課題を抱えているホテルは多いと思いますが、そうしたホテルが課題解決のために取り組むべきことは何だと思いますか?

堀口:私が1番おすすめしているのは、予測をするために予約の動きを示すブッキングカーブをつけるということです。特別なシステムがなくても、Excelのグラフを使えばブッキングカーブを作ることは可能です。簡単なものでよければ、亜欧堂で作成したExcelを販売していますので、そちらを使っていただいても良いと思います。

よくPMSにブッキングカーブの機能は入っていると言われることもあるのですが、正直使い物にならないものが多いのが実態です。また、既存のレベニューシステムは宝の持ち腐れで使われていないことが多いと感じます。せっかく高いお金を投資して導入しているシステムが、実は現場ではほとんど使われていないという事例がざらにあるのです。

松村:空はツールを作る側の立場ですが、そこは完全に同意見ですね。いきなりツールを入れて何かが大きく変わるという話ではないと考えています。私たちがおすすめする手法では、ツールの選定に入る前に何をどういうコンセプトで目指していくのか、レベニューマネジメントにおける目標・戦略・担当・プロセスなども決めた上で、最後にツールがきます。そうすることで自然と目的に適ったものに行き着くので、現場で実際にツールが使われてくるのだと思います。まずは考え方を変化させ、その考えに基づいたツールを導入するべきですね。

堀口:そうですね。ツール導入の前に、環境整備をしっかりやらなくてはいけません。私たちもそこに結構時間を割いておりまして。1つ例を挙げると、そもそも料金ランクの設定が適正かどうかに注視しています。今まで亜欧堂が直接的にコンサルティングしてきたホテルは64施設。他にチェーンとして関わっている施設を加えるとかなりの数になります。しかし、1度として「この料金ランクは満点ですね」となったことはありません。合格点を出せればいいくらいで、ほとんどやり直しになるんです。最大、最小の料金ランクがどうあるべきか、ピッチはどうあるべきか、部屋毎の差額はどうあるべきか。これらは我々の中ではセオリーがありますが、皆さん結構適当なところがあるようです。

1つ、我々の基準を挙げましょう。目標とするADRに対し、少なくとも30%以上は高い料金ランクが必要という基準があります。料金ランクも今目指している結果から逆算して設定しなければならない、という考え方です。多くのホテルは「今までの正規料金はこうだから」、「平米数で決まっているから」などと考えてしまいがちです。いくらツールがあっても、そもそも環境が整っていなければ意味がないのです。

 

正確なデータなくして、正確な分析は不可能

堀口:もう1つ顕著にある問題として、PMSに正確なデータが入っていないということがあります。例えば、団体の予約に対してどうせ減るからと少なめの室数を入力するといったようなことをすると、担当者によって室数が異なるというズレが生じてきます。データを扱う人にとっても、マネージメントする人にとっても、誤ったデータをいかになくしておくかということは大事なことです。

松村:私たち空も、同じことを勉強会でお伝えするようにしています。AIの世界ではよく「ガーベージイン・ガーベージアウト」という言葉を使います。整っていないデータを入れても、よい分析結果は得られないという意味です。これから先、間違いなくホテル業界へのAI技術の浸透は起きてくると思います。そのときに重要なのは、データベース上にきちんと正確なデータが残っているということ。どんなに優秀なAIサービスでも、正確なデータを読み込むことができないと、結果としてアウトプットされるデータにズレが生じてしまいます。

料金の意思決定にAIを使うか検討中のホテルの方々には、「データをきれいに蓄積することだけは早期にやっておいてください」とお伝えしています。AIは人の意思決定の結果によっても学んでいくので、予約データ、料金変更の記録、そしてなぜその料金に変えたのかという意思決定の記録まで残っているとベストですね。記録が残っていれば前任者がどのような判断をしていたかわかるので、担当者の引き継ぎの際にも便利だという側面もあります。

 

ホテル業界の未来を考える

松村:今後のホテル業界をどうしていきたいと考えていらっしゃいますか?

堀口:観光が成長産業であるならば、観光業界で働く人の待遇が良くなって欲しいということが創業当時からの目標です。そのためにはレベニューマネジメントに限らず、当たり前のことを当たり前にやっていく状態に持っていきたいと思っています。具体的には、一般的なビジネスマンだったら知っているようなことは、ホテルで働く人にも知っていてほしいですね。そうでないと、いずれ取り残されてしまいますから。

松村:待遇や働き方の改善は、私たちもテーマとして掲げています。ホテルで長期的にワークライフバランスを取りながら働くということは、実態としてはまだまだ難しいと聞いています。ですので、空としてはデータ分析やテクノロジーという観点で、ホテルの収益性を高めることと業務の効率化に貢献したいです。経営支援的に聞こえるかもしれませんが、それらが賃金の改善や勤務シフトの改善など、実際にホテルで働く人の充実感に繋がると思っています。テクノロジーサイドからビジネスに貢献しつつ、そこで働く人たちの環境をより良いものにしていく。ホテルのスタッフが生き生きと働くことで、そこに泊まるお客様の体験もより良いものになっていくのではないでしょうか。

 

ホテル業界の皆様へのメッセージ

堀口:ホテル業界の皆様には、変に我流を出さずに、まずはセオリー通りにやってみてほしいです。そしてそのセオリーを身につけてほしいと思います。観光業という意味では、もっともっと野心的になっていくことを期待します。「観光業界が日本を引っ張っていくぞ!」という気概が出てくるといいですね。

松村:料金の上げ下げのみでできることは限られています。けれど、レベニューマネジメントを効率化できれば収益と時間が生まれ、ホテル全体の価値向上に繋がります。そんなレベニューマネージャーという刺激的で重要なポジションを担っている方には、もっと楽しみながら高い結果を目指していってほしいです。その中でお困りごとがあれば、亜欧堂さんや空のような会社がサポートできるのではないかと思います。

 

堀口氏プロフィール
株式会社亜欧堂 代表取締役 堀口洋明
株式会社亜欧堂は、レベニューマネジメントやマーケティングを活用したWEB販売の改善やシステム導入サポートを中心に、ホテル業の増収をお手伝いするコンサルティングサービスを提供しています。

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